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【書評】千眼美子『全部、言っちゃうね』を中立的に読む

 やはり気になる本だったので、買って読んでみた。

※筆者は幸福の科学信者でも入信予定者でもないため、以下の文章は外部から中立的な視点で(あることを目指して)語っている。

全部、言っちゃうね。 ~本名・清水富美加、今日、出家しまする。~
 

 

「千眼美子」に対する特別待遇の表れ

そもそも幸福の科学出版から発売される近年の書籍は、大きく以下のタイプに分けられるだろう。

  1. 大川隆法らが説く幸福の科学の教え
  2. 大川隆法の公開霊言・守護霊インタビュー
  3. 幹部クラス・HUS関係者による一般書=啓発書

「1.大川隆法らが説く幸福の科学の教え」については、『◯◯の法』シリーズなど、宗教としての教義を説くもので、新興宗教における書籍としては極めて一般的。

近年の幸福の科学の活動として最も特徴的なものが「2.大川隆法の公開霊言・守護霊インタビュー」で、今回千眼美子が出家のキッカケになったとされる『女優・清水富美加の可能性』もこれに該当する。公開霊言と言ってもその方式は極めて単純で、大川隆法が守護霊を「召喚」して自らの身体に「憑依」させ、自由闊達に様々なことを語る。「召喚」される守護霊は芸能人から政治家など多種多様であるが、STAP細胞が問題となった際には小保方晴子の守護霊を、また「逃げ恥」が大流行したときには星野源の守護霊を「召喚」するなど、かなりミーハーで、世相の動きに敏感になりながら守護霊を「召喚」している。

「3.幹部クラス・HUS関係者による一般書=啓発書」については、幸福の科学の幹部あるいは幸福の科学学園の関係者が教義を解説したり学問っぽいことを言ったりするもので、書籍全体の中では割合はかなり低く、また親類など限られた者しか出版できない。

 

幸福の科学出版のこれまでの出版活動を以上の3点から考えるに、千眼美子は極めて特別な待遇によって自叙伝を出版する事ができたと考えられよう。つまり、幸福の科学出版では大川隆法を除けば限られた人間しか書籍を出版することが出来ていなかったのに、千眼美子は出家してから数日で一気にその限られた人間になってしまったのだ。これが「広告塔」目的なのか、彼女の宗教内における立場の高さを物語っているのかは、外部から推し量ることができないが、少なくともこれまでの出版の傾向を大きく覆すもので、ターニングポイントとなる可能性は指摘できるかもしれない。

 

ちなみに、一部では「出版をするということは前々から準備されていたことで、この出家は計画的犯行だ」と語られているが、それは幸福の科学出版の驚くべき出版スピードを舐めている。先述の通り彼らはミーハーであり、一躍時の人となった著名人の守護霊を瞬く間に「召喚」し、1週間程度で書籍化し全国の書店にそれを並べるという謎の実力を持っている。

レプロと宗教

さて、本文であるが、全文が千眼美子のインタビュー書き起こしとなっている。文章の整形が殆どされていないため時系列が錯綜したり明らかに不要な文章が残っていたりしているが、文体は語り口調で極めて易しく、また不出来な大学生のレポートでもそこまでやらないだろ…というほどに行間や余白が広いため、140ページほどの本であるがわずか20分で読了した(読了した瞬間にこの本に1300円払ったことを若干後悔した)。

全体を通して語られているのが千眼美子が仕事をする中でとにかく「死にたい」という感情を常に抱えていたこと、また相談に乗ってくれた信者A氏や幸福の科学がそれを救ってくれたことである。とにかく「死にたい」「死にたい」と連呼しているので同情せざるを得なくなってしまうし、プロダクションがいま話題のレプロであること、また昨今のブラック企業に対する厳しい風当たりなどを考えると、一瞬感情移入してしまいそうになってしまう。

ここは全体の構造として巧みな部分で、能年玲奈騒動や給与面などでの待遇の悪さなどからレプロの擁護をすることはできないし、「契約は最後まで全うしろ」との批判に対しても「死にたい」と言っていたり精神の異常をきたしていたりする人にズルズルとやらせるのかという擁護もしたくなってしまう(事実、これは労働とメンタルヘルスとの関連では正しく議論されなくてはならないポイントである)。となると「辛い時に心の拠り所になってくれた幸福の科学」を肯定的に捉えたくもなってしまうのだ。信者ではない我々外部から見ると最後のキッカケがどうしてもオカルトになってしまうので、そこで目を覚ますのだが。

全部、言ってるの?

タイトルでは『全部、言っちゃうね』となっているわけだが、個人的には暴露本として『もっと言っちゃって』が本音である(1300円も払ったんだし)。

  • 登場人物について。千眼美子と彼女から見たマネージャーやレプロ、幸福の科学とA氏が登場するが、視点は限られすぎていて、例えば女優仲間なども当然いたはず。「自分は頑張っていたけど死にたい」が全面に出てしまうと、お世話になった人もいるだろ、お前は何様だという話になってしまう(だからこそ「死にたい」と連呼する千眼美子に一瞬同情してしまうのだが)。
  • レプロの状況についてはかなり赤裸々に語られていて良い(真偽は不明だが)。ただ、p46の「2016年にようやく、月25万円いただけるようになりました。この年から、年収1千万円は確かにいただいていましたが」はやや意味不明だし、年収1千万円はかなり貰ってるじゃねーか。
  • どうせだったら「まれ」の時の諸々の話とかもっとしてほしかったのだが。幸福の科学の教義的に、窓から生魚を投げ入れるシーンはOKなんでしょうか。

 

結局のところは幸福の科学出版からの「暴露本」だし、インタビュアーも関係者であるとすると誘導なども当然に考えられるため、バイアスが入りまくっているのは間違いない。とはいえマスメディア側にレプロからの圧力がかかっている可能性も否定はできないため、状況を把握し現状を正確にジャッジしようと思うのであれば、手にとってみるのもありではないだろうか(立ち読みで十分ですが)。